ディーパンの闘い


久々に映画の感想を。
「ディーパンの闘い」は2015年のカンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールを獲得したフランス映画。

スリランカ内戦からフランスへ逃れた主人公を描くこの作品は、昨今のヨーロッパでの移民・難民を巡る状況をタイムリーに反映し、注目を集めていました。
しかし、鑑賞後の感想としては、タイムリーというだけでなく元ゲリラ兵である主人公の苦悩や「闘い」をドラマチックに描いた点に少し意表突かれ、とても印象に残る作品となりました。

なお、以下ネタバレも含みますのでご注意を!


難民の困難を克明に描く前半

壊滅寸前のタミル人武装組織で戦うことを諦め、スリランカを脱出し、フランスへたどり着いた主人公・ディーパンと、家族を装って同行した「妻」と「娘」(彼女たちは内戦で家族を亡くしている)。暗い不法滞在の時期をを経てなんとか難民申請、家と団地の管理人の仕事を与えられるが、 言葉もわからず、娘も学校になじめない。
こういった様子がリアリティを持って丁寧に描かれます。しかも本当の家族ではないから、3人は互いに不信感を抱きながら衝突し…という苦悩を少しばかり体験することができる前半でした。 


フランス郊外の治安問題

ディーパン一家が住まうことになった団地ですが、明らかに様子がおかしく、昼間から若い男たち、つまり一見してギャングとわかるような連中がウロウロしていて、ディーパンもすぐにそれを察します。時には堂々と発砲する始末で、さすがにデフォルメしすぎじゃないかと思ったのですが…ちなみにWikipediaでは郊外の団地のことが下記のように登場します。
バンリュー - Wikipedia

本作に登場するギャングはメンバーは特に移民という描かれ方はしておらず白人の若者が多いので上記リンクにあるような移民問題としての治安悪化としては扱われませんが、もちろん団地にはディーパン以外にも外国人・移民らしき人々もたくさん住んでいます。

そして、「ディーパン一家」もこのギャングとは無関係ではいられなくなります。


タフな活劇としての決戦シーン

やがてギャングの抗争に巻き込まれ、ディーパンは「家族」を助けるため立ち上がります。
正直、ギャングが登場した時点で、元兵士のディーパンがギャングを叩きのめすことを密かに期待せざるを得ません。この映画はそれをほぼその期待に沿ってくれます。少ない武器を駆使して使って闘うさまはハードボイルドな雰囲気さえあります。ちなみに私は名作「タクシードライバー」の襲撃シーンを思い出しました。
こういった何かを昇華させるような「期待通りの活劇」には何か監督の意図を感じずにはいられません。

さきほど「ほぼ期待に沿っていた」と書きましたが、実は疑問に思うことが。決戦序盤でディーパンの頭に銃弾が命中したように見えたのですが…。そしてあの幻想的なラストシーンは??
この点について、個人的にはやっぱりハッピーエンドにはなりえなかったのだと思ってます。ディーパンは闘争の中で生きることから逃れられなかった男なのではないかと。
ただし、作品中ではあくまではっきり描いてはいませんので、いろいろな解釈があり得ると思います。答えを持っている方がいたら教えてください。よろしくお願いします。

というラストシーンではありますが、リアリティの前半と、虚無的でタフともいえる活劇というクライマックス、そして「家族」の絆というドラマ要素が、非常に高いクオリティで混じり合い、非常に魅力的な作品になっていたことは間違いないと思います。


“仏テロ事件後であれば作らなかった”というオーディアール監督

フランスではこの映画の製作と前後して悲惨なテロ事件が起きました。それについても語るジャック・オーディアール監督のインタビュー記事は必読です。
パルムドール受賞作『ディーパンの闘い』“仏テロ事件後であれば作らなかった”

以上、他にも書きたいことはありますが、長くなったので以上で終わりです。

参考:タミル・イーラム解放のトラ - Wikipedia
関連記事:フランス・パリでの連続テロ事件を受けて

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2016-07-08